80年代後半、男女雇用機会均等法が施行され、私は女性総合職として大手銀行に入行した。銀行の女性管理職・役員の比率は今尚低いが、女性総合職の存在はまだ数えるほどだった。上役から私への期待の言葉を掛けられてはいたが、実際の支店の仕事で自分たちを管理職、未来の役員候補として育てる空気は感じられなかった。
その最たるエピソードがある。ある日「重要且つ難しいクライアントだから」と対応を頼まれ、言われるがまま顧客ブースに入った。先方の「ご用件」を聞く前から険悪な空気が漂っていたが、「前の担当者を出せ!女じゃ話にならん!!」と、女性を差し向けられたことで場が和らぐどころか、怒りの火に油を注いだ様子だった。
一緒に話を聞くのだと思っていた上長はいつの間にか消えていて、入社して1年も経たない私だけが話の聞き役となる。延々怒鳴られながら、助け舟、応援がいつ来てくれるかと思っていたが、結局2時間以上、客の理不尽な怒りの矛先は私だけに向けられ続けたのだった。この一件もあり、銀行の仕事に絶望した私は海外留学のため翌年銀行を辞めた。